毎年、台風が上陸すると夏の終わりが近づいているなと思う。
そして残暑も不思議なことにお彼岸の頃になると和らいでくる。
「暑さ寒さも彼岸まで」
とは言うけれど、昔の人は本当に上手いことを言ったものだ。
そして今年も台風が来て、テレビニュースではレポーターが中継地から暴風に飛ばされそうになりながら、台風の威力をまさに体を張って伝えていた。
お彼岸も向かえ、近くの霊園の近辺の道路も渋滞し、私の中ではその渋滞も夏の終わりを告げる風物詩となっている。
今年の夏も終わりだな…。
6月に日銀がゼロ金利政策を解除してから、住宅ローンの金利も上がったこともあり、
住宅メーカー、マンション販売業者、銀行などがセールスに力を入れているようだ。
「低金利の今こそ、家を買う絶好の機会です!!!」とセールストークを連発している姿が目に浮かぶが、もう10年ぐらい同じセリフを言っているのではないだろうか。
「今がチャンスです。これ以上の低金利はないでしょう」と言い始めてからも、どんどん金利が下がっていった。その頃のセールスマンは少しは責任を感じているのだろうか。
しかし、さすがにゼロ金利政策などという、考えられないことを今までやってきたのだから、そろそろ正常な状態に戻そうということなのだろう。
ゼロ金利政策で、もうこれ以上下げようがないところまで金利を下げたのだから、
歴史上あり得ないことを日銀はやってきたということか。
それはそれで、ある意味歴史に残る金融政策をしたとも言えるけれども…。
ともかく、世間では今後金利が上昇するから今が住宅購入のラストチャンスと、様々なメディアを使って大きく宣伝していることもあり、住宅ローンを申し込む人が増えているそうだ。
*****
今日、相談に来る鈴木さん(仮名)もそんな一人だ。
鈴木さんは、家電メーカーの営業マンで、今日は住宅ローンの相談に来る。
「こんにちは、鈴木です。今日はよろしくお願いします。」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。」
「今日は住宅ローンのご相談ということなのですが、住宅を購入しようと思った
きっかけは何かあるのですか?」
「じつは、今勤めている会社は、大きな家電メーカーで福利厚生などもしっかり
しているのです。今私達家族が住んでいるところも社宅なんです。」
「そうですか。良い会社ですね。」
「それはいいんですが、社宅なのでいずれは出て行かなければいけないのです。」
「そうですね。しっかりした会社なので急にクビにしたりするようなことはないと
思いますから、定年までは社宅にいられるのでしょうね。」
「今はまだ子供も小さく、家族3人ですから社宅でも十分なのですが、これから子供も
大きくなるし、もう一人ぐらいは子供も欲しいと思っているんです。
そうすると、今の社宅では狭くなっちゃうんです。
どちらにしても先々、定年になったり、会社を辞めさせられたり、関連会社へ転籍など
となったら社宅を出て行かなければいけないので、思い切って家を買おうかという話が
出てきたのです。」
「そうですか、確かに終身雇用制も崩れてきていますし、定年まで間違いなく勤め続ける
こともできるかわからないですよね」
「それに最近、ほら金利が今後あがりそうだって新聞にも出ていたし…」
「日銀がゼロ金利政策を解除して無担保コール翌日物を0.25%に上げたんですよ。
それに伴って住宅ローンの金利も上昇してきている状況ですね。」
「そうですそうです。それでちょっと調べてみたら、ここ数年は金利がものすごく低くて、
住宅を購入するには良い機会だったみたいですね。
私は社宅に住んでいて、あまり家を買うということを最近まで考えたことが無かったので、
そういうことに疎かったんです」
「確かに、今の金利は史上最低金利と言ってもいい状態でしょうね。これ以上金利を下げられないところまで下げた訳ですから。
今までは下げる方向ばかりだったのですが、さすがに日銀もゼロ金利を解除して、実際に
金利も上げましたから、これからは金利は上がる方向で考えておいた方がよいかもしれません。」
「そうすると、やはり住宅を購入するのは、今が一番良い時期と言えるのでしょうか?」
「金利のことだけを考えた場合、確かに今購入するチャンスだとは思います。ただ、金利のことだけを考えて住宅を購入することはお勧めしませんよ。金利が低いから今こそ買い時だと言って勢いで買ってしまっても、先々ローンが払えないということになったら元も子もないですからね」
「確かにそうですね。借りることはできても、その後の生活が苦しくなったらどうしようもないしなあ。」
「住宅ローンの相談に来られる方の疑問は大きく2つあります。
まず一つ目は、そもそも自分にそんな多額のローンが借りられるのかどうか、という点。
もう一つは、実際借りることができるとなった場合、固定金利で借りた方がよいのか、変動金利で借りた方がよいのか、という点。
もちろん、細かいことはまだたくさんあるのですが、この2点はだいたいの方が疑問に思うところです。」
「なるほどねぇ。私の場合はどうなんでしょうか?」
「鈴木さんの場合を一緒に考えてみましょう。まず借りられるのかどうかですね」
「各銀行では、それぞれ融資が実行可能かどうかの審査があります。詳細なところは各銀行ごとに違うので、実際に審査をしてもらわないとわかりません。
ただ、基本的な審査の条件として2つの審査基準があります。」
「それは何ですか?」
「1つは、融資比率というものです。これは物件価格に対する借入の割合です。
【借入金額÷物件価格×100=●%】 で計算します。
今お考えの物件と借入予定金額はいくらですか?」
「物件はマンションを考えていて、3,500万円ぐらいを考えています。
借入は3,000万円を予定しています。」
「そうですか、では計算してみましょう。 【3,000万円÷3,500万円×100=85.7】 ですね。」
「これなら基本的にどこの銀行でも借りられるのではないでしょうか。
公的融資、フラット35などは、物件価格の90%までしか融資してくれません。
昔は住宅金融公庫では80%までしか融資してくれませんでした。」
「よく住宅購入には2割の頭金が必要と言われていたのは、住宅金融公庫が80%までしか融資してくれなかったからなんです。」
「そうなんですか。なるほど。では、もう1つの基準は何ですか?」
「もう1つは、返済比率というものです。こちらは、税込年収に対する年間返済額の割合です。【年間返済額÷税込年収×100=●%】 で計算します。
失礼ですが、今の年収はおいくらですか?」
「約600万円です。」
「では、計算してみましょう。
借入金3,000万円を35年返済で優遇金利1.675%で借りたとすると、月々の支払は94,448円です。年間では、1,133,376円ですね。」
「これを使って返済比率を計算すると、
【1,133,376円÷6,000,000円×100=18.89%】 ですね。」
「これも大丈夫そうですか?」
「じつは、返済比率はちょっと気をつけないといけないんです。というのは、実際の銀行内の審査で使われる金利は、優遇金利の1.675%ではないんです。」
「え〜、ホントですか!」
「ええ、そうなんです。銀行内では審査用の金利として、だいたい4%を使っているのです。ですから4%で計算し直すと、返済額は月々132,832円、年間では1,593,984円になります。」
「そうすると、,593,984円÷6,000,000円×100=26.57%になります。」
「フラット35では、25%までと言われていますから、全額をフラット35で借りることは難しそうです。」
「はあ、そうなんですか…。」
「鈴木さんの場合、借入をできないことはないと思うので、その点は心配ないと思いますよ。」
「では、実際に借入をするとしたら、固定金利と変動金利のどちらがよいのでしょうか?」
「正直に言います。どちらが有利かということは、本当は誰にも分からないんですよ。」
「そうなんですか?」
「そうですよ。いくら専門家と呼ばれている人がどう言おうとも、どちらが有利かなんて、10年後20年後になってみないと分からないんですから。」
「将来のことは誰にも分からないのだから、どちらが有利かは今の時点では断言できないはずですよ。」
「基本的な考え方として、固定金利は借りた時の金利がずっと最後まで変わらないものです。今後金利が上昇しても返済額が変わらないので、安心です。
ただその分、変動金利よりも金利が高いです。いわば変動金利との金利差は、保険というか安心料みたいなものです。」
「一方、変動金利は、固定金利に比べれば金利が安いですが、今後金利が上昇すると返済額が上がってしまう可能性があります。
ただし、無条件に上がっていく訳ではなく、まず5年間は返済額が変わりません。金利自体は半年毎に見直されますので、返済額の中の元本と利息の割合が変わります。」
「仮に金利が今後上昇していったとしても、すぐに固定金利が有利となる訳ではありません。変動金利が上昇していき、固定金利と同じになったとしたら、鈴木さんはどう思いますか?」
「う〜ん、どうかなあ。変動金利が固定金利を上回ったら、固定金利の方が有利になるんじゃないかな?」
「じつは、そうではないんです。変動金利が固定金利を上回ったとしても、それまでには変動金利でかなり元本部分を返していますので、少し越えた時点では、まだ変動金利の方が有利なんです。」
「そうかぁ、なるほど、そうですね。」
「そうすると、固定金利が有利になるのは、さらに先で変動金利が固定金利をかなり上回った時点になるのかあ。」
「そうですね、そういうことになりますね。」
「つまり先々何年後くらいに、変動金利が固定金利を上回るようになるのか、ということですね?」
「これには正解はありません。鈴木さんご自身が、金利が先々どうなると思うかで決めれば良いと思います。」
「はい、わかりました。」
「ところで、これで住宅ローンの相談の大きな疑問はある程度解消されたと思いますが、本当に大切なことは、住宅ローンを借りられるかどうかではないんですね。
本当に大事なことは、住宅ローンを借りた後も生活がしっかりと成り立っていくのかどうかということなんです。」
「確かにそうですね。」
「佐瀬さんのところでは、そういった相談もしてもらえるのですか?」
「ええ、もちろんですよ。むしろ、そういうライフプランまたはキャッシュフロー表などをきちんとプラン作成して、先々のお金の状態まで含めて相談に乗ることがファイナンシャルプランナーの役割ですから。
いろいろと考え方あるのですが、鈴木さんは今、貯蓄はどれくらいありますか?」
「そうですね、色々かき集めれば、1,500万円ぐらいはあると思います。」
「そうですか。その1,500万円をすべて住宅ローンの頭金にしてしまうことも一つの手です。そうした場合、借入額が少なくなりますから、ローンの負担は軽くなります。」
「一方、手元に蓄えが全くなくなってしまうのも不安があると思えば、500万円を頭金にして、
1,000万円を万一の時のためにとっておく、ということもできます。
または、物件価格をすべて借入でまかない、持っているお金は運用する、という方法も考えられます。」
「仮に1,500万円を年5%の利率で運用すると、10年後には約2,255万円、20年後には3,484万円になります。」
「そんなになるんですか。」
「おそらくうすうす分かっているとは思いますが、何が有利か不利かということを考えるよりも、大切なのは今後自分がどのように生きていくのかということなんです。」
住宅ローンの借り方一つ取っても、どのような借り方をするのかは、その人の生き方、価値観、考え方で十人十色、千差万別なんです。
ですから、鈴木さんがこれからご家族も含めて、どのように生きていきたいのか、そこをよく考えた上で住宅購入されると良いと思いますよ。」
「なるほど、そうですね。今日は住宅ローンの相談に来たのですが、色々と得るものがありました。」
「いえ、どういたしまして。」
「これからのことをもっと相談したいので、お願いしてもいいですか?」
「はい、いいですよ。またご相談に来て下さい。」
*****
鈴木さんが奥様を連れて相談に来たのは、2週間後のことだった。
鈴木さん夫婦との相談の結果、以下の3パターンを検討することになった。
- 住宅ローンを今の貯蓄すべてを頭金にするケース
- 貯蓄の半分を頭金にするケース
- 500万円を頭金にして、1,000万円を運用するケース
検討した結果がどうなったかと言うと…
(1)のケースだと、鈴木さんが働いている間は問題ないが、定年後の生活が赤字になってしまう。
(2)のケースは、(1)のケースよりは良いが、ご夫婦が平均余命まで生きるとすると赤字になってしまう。
(3)のケースでは、1,000万円をしっかり運用していけば、ローンも返済しつつ、老後の生活も赤字にならずに済む。
「こういう結果になりましたが、いかがですか?」
「そうですね。こうしてしっかりプランを作ってみないと分からなかったですね。」
「みなさんついつい目先のローンのことばかりに気をとられてしまい、もっと先の老後の生活までは、なかなか頭が回らなかったりしますからね。」
「本当にそうね。とりあえず、家が買えるということで、楽しいマイホームのことばかり考えていてウキウキしていたけれど、その後の生活のこともしっかり考えないといけないわね。」
「私のご提案としましては、やはり(3)の借入ができるだけの頭金を用意して残りは運用するという方向が良いと思いますが、いかがですか?」
「その方向でお願いします。それでいいよな?」
「ええ、そうしてもらえれば、先々も安心ですものね。」
「ところで、その運用についてもご相談は可能なんですか?」
「大丈夫ですよ。運用は私の最も得意としているところですから。」
「それを聞いて安心しました。運用するのが良いと聞いても、どうしたらよいかわからないですからね。」
「鈴木さんのように長期で運用可能ならば、あまりリスクを取らずに安定したリターンを得るプランでいけば、20年後30年後はしっかり資金が貯まっていると思いますよ。」
「では、運用も合わせてお願いします。」
「わかりました。一緒に考えていきましょう。」
*****
ちなみにご参考情報。
1,000万円を年5%で複利で運用した場合
10年後 … 約1,503万円(税引き後)
20年後 … 約2,323万円(税引き後)
30年後 … 約3,658万円(税引き後)
1,000万円を年6%で複利で運用した場合
10年後 … 約1,633万円(税引き後)
20年後 … 約2,766万円(税引き後)
30年後 … 約4,795万円(税引き後)
1,000万円を年7%で複利で運用した場合
10年後 … 約1,774万円(税引き後)
20年後 … 約3,296万円(税引き後)
30年後 … 約6,290万円(税引き後)
となります。
注目してほしいのは、年5%と年7%では利回りが2%しか変わらないのに、
30年という長期で運用していくと、倍近くまで運用結果が変わってしまうことです。
わずかな金利差でも、積もり積もれば大きくなるということですね。
その後、鈴木さんはどうしたのかって?
具体的なプラン作成のためのカウンセリングを何回も重ね、しっかりとしたプランを提案しました。
提案後、気分転換とたまにはさぼってゆっくりしようと思い、私はドライブに出かけました。
澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込み、紅葉できれいに赤く染まった山々を見て、秋を満喫していると、私の目には30年後の鈴木さん夫婦の笑顔が浮かんできました。
提案後に見せてくれた鈴木さん夫婦の安心した顔がとても嬉しかったのです。
「30年後もあの笑顔でいれくれたらいいな。」
そう思うとなぜか急に家族の顔が見たくなり、急いで家に帰ろうと、紅葉を背に車を走らせた。
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