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佐瀬貴之FP事務所トップ > ケーススタディ3  将来が不安なフリーランス独身女性の長田さん

将来が不安なフリーランス独身女性の長田さん

日本の梅雨時は気分がすぐれない。

毎日毎日どんよりとした空気に雨ばかり…。
晴れない気分にさらに追い打ちをかける蒸し暑さ。

だからいつも天気予報を見ながら、
「いつになったら梅雨明けするんだ?」
とお天気お姉さんを問い詰めるような眼差しでみてしまう。

最近はその梅雨明け宣言も昔のように何月何日とはっきり言わなくなった。
何日頃明けたもようですと歯切れが悪くなり、聞いているこちらも
「はっきりしてくれーーー!」と叫びたくなる。

梅雨明け宣言と言えば、私の中ではセットになっている夏のカッーとした暑さと
抜けるような青空、そして入道雲。

関東地方の梅雨明けは、ちょうど小学校の夏休みに入る頃と重なるので、
昔から梅雨明け=暑さ・青空・入道雲・夏休みというイメージができあがっている。

そんな昔からの体験があるので、梅雨明け宣言はとても待ち遠しい。

この気持ちは、北海道の方ならわかるのではないだろうか。

私は北海道に4年ほど住んでいたことがある。
梅雨明けを待つこの心境は、北海道の人達が春が来ることを待ち望んでいる
気持ちに似ていると思う。

北海道は、冬の間厳しい寒さと雪に囲まれた生活を強いられる。
雪もたまに見る分には珍しくウキウキした気分になるが、毎日だとまたこれが憂鬱になるのだ。

そんな毎日を過ごしていると、どんよりとした気持ちで過ごすことが多い。
長い長い冬でも必ず春は来る。
そして春が来て、雪が解け、ふきのとうが顔を出すと、言いようのない晴れ晴れとした気分になる。

「あぁー、やっと春が来た」と開放された気分になるのだ。

梅雨明け宣言と夏の訪れは、その時の気持ちに近いものがある。

そんな梅雨明け宣言と共に来る夏も最近はあまり大きな入道雲を見ることができなくなり、少し寂しさも感じている。

そんな時に今朝の天気予報でようやく梅雨明け宣言がされたと、お天気お姉さんが嬉しそうに言っていた。

*****

梅雨明け宣言が行なわれたものの、スッキリしない気分を抱えた今日の午後、
訪れたのはフリーランスでWEBデザイナーをしている長田さんだ。

長田さんを初めて見た時に私の頭に浮かんだ職業は、「モデル」だった。
「モデル」ではないとすれば、大企業の「受付嬢」である。

そういう職業が頭に浮かぶような容姿をしている。
とてもWEBデザイナーという職業と長田さんの外見は結びつかない。

「こんにちは、お電話でご相談の予約をしている長田ですけど。」

「ああ、はい。お待ちしていました。」
私は事前に職業はWEBデザイナーだと聞いていた。
しかしあまりにイメージしていた人物像とかけ離れた長田さんが入ってきたので、
驚いてしまった。

「今日はどういったことで、ご相談に来られたのですか?」

「私は今、フリーでWEBデザイナーをやっています。今のところ仕事はコンスタントに受注することができていて、なんとか生活はしていけています。」

「そうですか、それで。」

「今の仕事はやりがいもあるし、仕事もコンスタントにあるのでとても充実しているのですが、なにぶんフリーでやっているので、将来がとても不安なのです。」

「具体的には、どんなことが不安なのですか?」

「はい、企業に勤めているわけではないので、安定しているとは言えないので、先々の生活、特に老後の生活資金はどうなってしまうのだろうと、時々言いようのない不安に襲われるのです。」

「えーと、年金は国民年金を支払っていますか?」

「はい、国民年金はきちっと払っています。」

「最近、国民年金を不払いしている人が増えていると世間では話題になっています。
ニュースで聞いたことはありますか?」

「ええ、そういうニュースを聞いて、国民年金を支払うのは割に合わないのかなと思って、一時期は支払をやめようかと思ったこともあります。」

「そうですね。そういうニュースは話題性があるので、大きく取り上げられるのですが、実は国民年金を支払わない方がもったいないんですよ。」

「そうなんですか?よくニュースや新聞記事などでは、年金は支払った分も戻ってこないから払うだけ損をするって聞いたんですけど…。」

「これはあまり大々的に報道されていませんが、実は割に合わないのは厚生年金なのです。
世間で言われている、払った分さえもらえないのは、厚生年金加入者なのです。国民年金を支払っている人は、支払った分の2倍近く年金をもらえるという試算もあるぐらいです。」

「なんで、そういうことはあまり大々的に報道されないのですか?」

「それはいろいろ理由があるのでしょうが、そういうことを大々的に報道して厚生年金加入者の不満が高まり、大きな問題になってしまうのを防ぐためではないかと思われます。
国民年金を支払っている人は割に合わないどころか、とても有利な立場にいるのに、勘違いをして国民年金を支払っていない人がいるのは驚きです。」

私は長田さんの様子を見ながら、続けて説明した。

「まず、年金についてしっかり理解しておきたいことは、その制度です。
私達が納めている国民年金や厚生年金の保険料は、将来自分達が受け取るための年金の原資を積み立てているわけではありません。

今の公的年金は賦課方式といって、私達が支払っている保険料は、今年金を受け取っている高齢者の方々への年金となっているのです。」

「えぇ!そうなんですか。私はてっきり将来の自分の年金の為に支払っているのかと思っていました。」

「その賦課方式というところが、今の年金制度の最大の問題を起こしているのです。つまり、高齢者の方々の年金は、今現役で働いている人達の保険料で成り立っているのです。ここまではいいですか?」

「はい、わかります。」

「それでは次に、今出生率が下がっていることはご存知ですか?そうです、少子化が進んでいるんですね。その一方で医療技術の進歩で、日本の平均余命は伸びていることもご存知ですよね。つまり世間で言われているように、今日本は少子高齢化社会になっているのです。このことが年金にどういう影響を与えるかわかりますか?」

長田さんは、少し眉間にしわを寄せて一生懸命考えているようだ。美しい人の悩ましげな眼差しは、とても魅力的で引き付けられる。私はいつまでもその表情を楽しんでいたかったが、あまり困らせてしまうのも可哀想に思い、答えを話し始めた。

「少子高齢化社会ということは、子供そしてこれからの若い人々の人数が減って、お年寄りの方々が増えるということですね。」

「あぁ!そうか、そういうことか!つまり年金は現役の働いている人がお年寄りの年金を受け取っている人へお金を渡している訳だから、受け取る人が増えて、渡す人が減ると、今の年金制度の方法では、いつか行き詰る時が来るってことですね。」

長田さんは、考えていたことがわかって、とても嬉しそうに一気に話した。

「そうです。その通りです。今の年金制度は、賦課方式という現役世代かからリタイア世代への世代間の所得の移転という側面があります。なので、今後働く世代が減って受け取る世代が増えれば、必然的に今のままの状態では立ち行かなくなることが明らかです。」

「そういう意味では、年金制度は今とても大きな問題を抱えています。先々年金がもらえなくなる可能性もまったく無いとは言えません。しかし日本の場合、高齢者の方々の生活資金の柱として年金は今後も変わることがないと考えると、何らかの制度の改革はあるにせよ年金制度自体が無くなる可能性は低いでしょう。

その年金制度の問題と、年金の受け取る額の多い少ないという問題は別の問題として捉えておかないと、大きな勘違いを起こします。賦課方式の問題と、自分が支払っている保険料と同じだけの年金が受け取れないという問題は、別の問題です。」

「そうなんですか…。」

「先ほど話したように、自分が支払った保険料と同じだけの年金を受け取れないのは、厚生年金の加入者なのです。国民年金の加入者は自分が支払った保険料どころか倍近い額の年金が受け取れるのです。
ですから、長田さんが国民年金を支払っていることは、とても得をしてると思っていていいですよ。」

「では年金だけで、老後の生活は大丈夫なのでしょうか?」

「それはまた別の問題ですね。国民年金を40年間払い続けると、今の時点で年間約80万円がもらえます。当然それだけでは生活できないでしょうから、なんらかの対策を考えないといけません。」

「そうですよね。私の不安もそこにあるんです。今は仕事もあるし、日々の生活はなんとかやっていけるから良いんですが、将来の不安はどうしても残ってしまうんです。
やはり何らかの対策を取らないといけないのでしょうか?」

「長田さんに限らず、今の30代・40代の人達は、老後の生活資金をどうするかという問題を抱えています。年金だけでは明らかに生活していくことができないからです。国民年金を支払い続けること、プラス何らかの資産形成を考えておかないと、将来大変なことになりかねないですよ。」

「では、どうしたらよいのでしょうか?」

「長田さんは、資産形成の公式ってご存知ですか?」

「資産形成の公式、ですか?」

長田さんは不思議そうな顔で聞き返した。

「そうです。資産形成の公式です」

「聞いたことがないです。どんな公式なんですか?」

*****

私は側にあったホワイトボードに近づいて、次のように書いた。

資産形成 = (収入−支出) + (資産×運用利回り)

「これが資産形成の公式です。まず(収入−支出)ですが、これはわかりますよね。
入ってくるお金より出ていくお金の方が少なければ、手元にお金は残るし、多ければ手元にお金は残りません。」

「そうですね。」

「そして、(資産×運用利回り)ですが、残っているお金をどれくらいの運用利回りで回すかによって、残るお金の増え方が変わってきます。」

「なるほど。」

「世の中のお金に関する本などは、この公式のうちのどこかの部分について書かれていると言われています。例えば、出世術だとか、副業を行なうといったことは、収入を増やすことを言っています。
また、節約の方法については、支出を減らすことを言っています。
そして、株や今なら外貨証拠金取引(FX)などは、資産を運用してお金を増やすことを言っています。わかりましたか?」

「はい、なんとなくですけど、わかりました。
では、資産運用をどのようにやっていけばよいのでしょうか?」

「この公式を見ればわかるとおり、資産を形成する方法は何も資産運用だけが唯一の方法ではありませんよ。収入を今以上に上げるか、支出をできるだけ少なくするか、そういった方法でも資産を形成することができるんですよ。」

「特に長田さんのようにフリーの方は、企業に勤めている訳ではないので、不安定なところもありますが、逆に言えば自分が頑張れば頑張っただけ収入を上げることができるとも言えますよね。
一番良いのは、すべての面で頑張れば、それだけ早く資産形成ができるということです。
かといって、すべての面で一人で頑張ろうとすると大変です。」

「そうですね。仕事も忙しいのに、その上資産運用の勉強もして、自分でやっていこうとすると、とても時間が足りなくなってしまいます。どうしたらいいんでしょう?」

長田さんは、本当に困った顔で私の方を見た。
あまりにまっすぐに懇願するような目で見つめられたので、こちらが恥ずかしくなってしまい、思わず目をそらしてしまった。

「エネルギーの話をしましょう。人はみんなエネルギーを持っています。そのエネルギーをどこに使うのかは非常に重要です。仕事に使うエネルギーが100あるとしましょう。今は自分の本業に100使っている状態です。
ここにさらに収入を上げようと副業を始めたとします。エネルギーの状態はどうなると思いますか?」

「本業に100使っていたのだから、そこから20とか30とかは、副業の方に使うようになると思います。」

「そうですよね。100使えるエネルギーがあったものが、副業を始めることによって、例えば80は本業、20は副業という割合になりますね。
では、100のエネルギーすべてを本業に注いでいたのものが80になったら、本業の方はどうでしょうか。今まで以上のパフォーマンスは発揮できるでしょうか?」

「う〜ん、それは難しいでしょうね。今だって100使って大変な状態なのに、20も減ってしまったら、とても今以上のパフォーマンスを発揮することはほとんど不可能な気がします。」

「その通りですよね。多くの人が勘違いしてしまうのですが、収入を増やそうと思って、本業の他に新たに何かを始めてしまうことです。新たな収入源を得ようとする訳ですね。

しかし、それは本業で使うエネルギーを別のところで使うことになりますから、本業のパフォーマンスは落ちることになります。もちろん、それが本業以上の成果を出すのであれば良いのですが、もし仮にそうだとしたら、それを本業にすべきです。本業は一番パフォーマンスが発揮できるものにすべきです」

「確かにその通りかもしれませんね。」

「では、複数の収入源を持たなくてよいのかというと、今の時代、サラリーマンであっても将来の不安はありますから、何かしらの収入源なり、資産を増やす方法は持っていたほうがよいでしょう。
その時には、できるだけ本業で使うエネルギーを減らさずにできる方法を考えるべきです。」

「え〜と、それはどういうものでしょうか?」

「自分は何もしなくてもお金が入ってくるような仕組みを作ることです。
例えば、不動産を購入して入居管理からメンテナンスまで専門の業者に任せてしまって、自分はそれらの経費を引いていくらかのお金を受け取るだけの状態にするとか、金融商品であれば、専門家にプランを作成してもらって、それを実行し、定期的な報告を受けるだけにする
とかですね。

ポイントは、自分はなるべく何もしないことです。いくらかでもお金を払ってでも専門家にやってもらい、その結果プラスの成果が得られるのであれば、それでいいのです。
後は自分は使えるエネルギーを本業の方にすべて注ぎ、本業でのパフォーマンスを今以上に発揮できるようにすればよいのです。

そうすれば本業での収入もアップし、運用でもプラスの結果を得られるようになれば、自動的に資産形成ができることになります。
それにあまり過大な支出をしないように心がければ、資産形成の公式通り、数年後には資産は増えていることでしょう。」

「なるほど、そうですね。」

「それと大切なことがもう1つ。
今の現状を変えたいのであれば、とにかく一歩前に踏み出すことです。
例えば、多くの人は今まとまったお金が無いから資産形成なんてできないよと諦めてしまい、何も行動を起こしません。

しかし今の自分は、過去の自分の決断や考えてきたことが積もり積もって出来上がったものです。その現状を変えたいのであれば、今までと同じ考え方・行動の仕方では何も変わりません。資産形成をしたいのであれば、どんなことでもよいからそこに向けて行動を起こすことです。」

「それはそう思うのですが…。なかなか一歩が踏み出せません。」

「長田さん、心配することはありませんよ。もう長田さんはしっかり、行動を起こしているじゃないですか。今日こうして相談に来たこと自体が長田さんが将来の不安を克服するための一歩を踏み出しているんですよ。

多くの人が同じように不安や悩みを持っても、具体的な行動を起こすことをしないまま、それまでと同じことを続けてしまいます。
そう考えれば、もう長田さんは半分ぐらい自分の不安や悩みを解決しているのですよ。」

今までずっと不安げだった長田さんの表情が、初めて明るい表情になった。
私と話すことで、今まで一人で抱えていた不安や悩みがだいぶ薄れてきたのかもしれない。

「今日、お話をしてかなり不安はなくなりました。将来に向けて何かしなくてはとずっと思い悩んでいたのですが、なんだか前向きに考えられるようになった気がします!」

「それは良かったです。長田さん、そんなに心配することはないですよ。
きっと長田さんの周りにいる方々は長田さんの味方だと思います。その周りにいる方々と一緒に頑張っていけばきっと大丈夫です。
もちろん、私もお力になれることがあれば、いくらでも力を貸しますよ。お金に関することであれば、いつでもご相談にいらして下さい。」

「そう言ってもらえると、とても助かります。また今度、具体的な方法についてもご相談に乗っていただけますか?」

「はい、いいですよ。一緒に考えていきましょう。」

相談当初の憂いのある表情の長田さんも、帰る頃にはとても爽やかな笑顔を見せるようになっていた。

美しい人の様々な表情を楽しめたことに内心喜びを感じていたが、なによりも嬉しかったのは、お客さんの不安や悩みが少しでも取り除けたことである。

外に出てみると、梅雨明け宣言後の初夏の青空が広がっていた。
長田さんの爽やかな笑顔が、初夏の青空を運んで来てくれたようだ。

今年の夏は、きっと抜けるような青空と大きな入道雲が見られる、そんな気がした。

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